エンパブ的(1):地域の医療を自ら守る~県立柏原病院の小児科を守る会
posted on 2008年10月 6日 07:16
広石です。
「エンパブ的」では、エンパブリック&根津スタジオでの取り組みを通して、
みなさんと一緒に生み出していきたいものの先行事例を紹介していきたいと思います。
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県立柏原病院の小児科を守る会とは、兵庫県立柏原病院の小児科が閉鎖されそうだと
いう報道がされたことをきっかけに、地域住民が立ち上がった。
この「立ち上がった」と書くと、従来なら、反対や陳情の運動をしたように思う。
しかし、この会は、地域にある課題を見極めた上で、私たちにできることとして、
「先ず患者である自分たち自身が変化していかないといけない」
という行動をとった。
この会の意味を考えるには、少し背景的な情報があった方がいいと思うので、説明したい。
近年、しばしば医師不足が指摘され、政府が医師増加に多額の予算をつけたという
報道がされている。
しかし、本当に医師が足りないのか?
国は以前から全都道府県に医科大学を設置して医師を育ててきている。
問題は医師の数ではなくて、医師が都市や比較的楽な科目に集中していたり、
女医が過酷な労働条件で現場を離れているからではないだろうか。
では、医師だけが悪いのか?
例えば、今、一番大きな課題と言われる地方の小児医療について考えてみると、
患者の行動の変化も大きな影響を与えている。
例えば、夜間の救急や救急車の利用の増加がある。
夜間救急の増加に関する各種レポートを読んでいると、様々な声が聞こえてくる。
「夜中に子どもが熱を出した。明日の朝まで待てない。今、治して欲しい」
「子どもが急に震えだした。ネットで調べたら早く医師に見せないと書いてある。
不安だから、今、見てほしい」
それは自然な感情だろう。
「明日の朝、会社があるから、病院に行けない。夜中に行けば救急で診てもらえるなら、
今のうちに診てもらいたい」
医療を単にサービス業としてみるなら、それは自然な流れだ。
「社会保険代払っているんだから、良い病院で診て欲しいのは当然の権利」
「こちらは医師にとってのお客さんなんだから」
という権利意識もわかる。
今、患者をめぐる環境も、患者の意識も変化している。
テレビ、雑誌などで医療情報が氾濫する中、医療情報を判断する力が弱い状況で情報に触れると、
情報の未消化から不安感が高まりやすくなっている。
もともと、核家族で育ち、子どもの面倒を見る経験をあまり持たずに親になり、家族の子どもの
病気についての経験経験などが不足し、判断基準や生活の知恵がなく、不安は加速しがちだ。
しかし、かかりつけ医制度を利用していないので、気楽に相談できない。それに加え、同じ医療を
受けるなら、質の高い医療を希望する気持ちから、大病院に集中する。
そこには、ライフスタイルの変化で午前、病院に行くことが難しい人が増えていることもある。
また、人々は民間一般サービスの利便性に慣れ、サービス消費者としての要求意識が強くなっている。
医療もサービスである。そのことは、だいぶ意識が広がってきた。
僕がシンクタンクに入って最初に取り組んだ仕事は病院経営で、そこで大きな課題となっていた
のが、いかに「サービス」としての意識を病院が持つか、だった。
病院で「・・・様」と患者さんを呼ぶようになったのも、そのあたりから。
ただ、その一方で、人々の意識の中から「医療の公共性」という概念が弱まっている。
医療は社会的共通資本として、一人ひとりが支えるからこそ成立していることを
忘れてしまいがちだ。
以前の「お医者様」的な供給者中心主義の上からの医療も違うだろう。
一方で、医療の公共性を無視して、個人の権利だけが重視される医療も違う。
誰かを「様」扱いして、上下をつけることでは解決しない。
答は、私的権利と公共性の間にある。
私たち一人一人は、患者として自分の要求への対応を求める権利を持つ存在であると同時に、
地域や国の医療制度の支えてである公共的な存在でもある。
しかし、そのことを、どう考えればいいのか、地域の実情に応じて、どう現実化していけばいいのか、
それがわからないし、その議論の仕方なんて習っていないし、答もない。
今、そこにユニバーサルな答は見出せない時代なのだと思う。
だから、それぞれの思い込みからの一方的な主張をぶつけ合うのではなく、
私的存在からちょっと公のところにシフトし(=empublic し)、対話をしていくしかないと思う。
医師は何を、患者は何を、医療制度の担い手は何を、考え、求めているのか。
そして、それぞれの立場から何ができるのか。
それを編み上げていくしかないだろう。
「県立柏原病院の小児科を守る会」は、住民が自ら、自分たちができることとして、
地域医療の現状、小児医療へのかかり方などを伝え、共に考え、勤務医の負担を減らす
ことを通して、地域の小児医療を守る取り組みをした。そして、それに共感した医師が
勤務するようになったのだ。
- 会のサイトはこちら
- wikipedia にコンパクトにまとまっています こちら
- wikiに引用されている神戸新聞の記事「住民が奇跡を起こした」
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問題がある時に、それに不満を言い、要求するだけでなく、できることを考える。
それが社会起業家の根本だ、とこの6年間、広石WSで伝えてきた。
ただし、今、様々な社会的課題は、上記のように、私と公共の間で答がでない時代だ。
だからこそ、私を少し公(public)にシフトして、対話の場を作っていかないといけない。
しかし、「私は私的存在であると同時に公共的存在だという立場で対話する」なんて、
現状で、そう簡単にできるものではない。だからこそ、スキルとツールが必要だ。
empublicは、この対話を生み出していくためのスキルとツールを生み出していきたいと
考えている。対話の方法がわからないなら、みんなで作っていくしかない。
だから、ファシリテーターであり、ワークショップが不可欠だと考えている。
そして地域には対話が生まれるためのツール・スキル・人材育成の拠点が必要であり、
それをコミュニティ・スタジオと呼んでいる。

